賃貸借契約の更新時期が近づき、管理会社から届いた更新通知に「更新料〇〇円」と書かれていて、「これは本当に払わなければいけないお金なのか」と疑問に思った方のための記事です。更新料は家賃1か月分程度になることが多いとされ、金額が大きいだけに納得のいく説明が欲しいところです。この記事では、更新料の法律上の位置づけ、地域による相場の違い、更新事務手数料との違い、最高裁判決の要旨、自分のケースへの当てはめ方、契約前後にできる行動の順に整理します。

事実:更新料の法的な位置づけと最高裁判決

更新料とは何か、なぜ発生するのか

更新料とは、賃貸借契約の期間満了にあたり、契約を続ける(更新する)際に借主から貸主に対して支払われる金銭のことを指します。家賃や敷金と違い、更新料の支払いを一律に義務づける法律の規定は存在しません。更新料が発生するかどうかは、個々の賃貸借契約書に「更新料特約」が定められているかどうかによって決まります。

更新料の有無・金額・支払時期は、本来であれば契約前の重要事項説明や契約書の読み合わせの段階で確認しておきたい代表的な項目のひとつです。

注意: 「更新料は賃貸借契約の慣習だから必ず払うもの」という説明は正確ではありません。契約書に更新料特約が明記されていなければ、支払う法律上の根拠は基本的にないという点をまず押さえておいてください。

最高裁平成23年7月15日判決(第二小法廷)の要旨

更新料特約の有効性が正面から争われた事件で、最高裁判所は平成23年7月15日(第二小法廷、民集65巻5号2269頁)、更新料特約は消費者契約法10条に違反せず有効であると判断しました。

消費者契約法(平成12年法律第61号、平成13年4月1日施行)10条は、①民法などの任意規定が適用される場合に比べて消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項であって、②民法1条2項の基本原則(信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効とする条文です(現行の条文は平成28年改正〔平成29年6月施行〕により前段に例示が加えられています)。この事件でも、更新料特約がこの2つの要件を満たし無効となるかが争点となりました。最高裁の判断の要旨は次のとおりです。

  • 賃貸借契約書に、更新料の支払義務の有無・金額・支払時期一義的かつ具体的に記載されていること
  • 更新料の額が、賃料の額や契約が更新される期間などに照らして高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないこと

判決文の中核部分を要約すると、「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』には当たらない」という内容です。つまり、更新料特約そのものが直ちに無効になるわけではなく、①契約書の記載が具体的であること、②金額が不相当に高額でないことの2点を満たしていれば、更新料特約は有効という判断枠組みが示されたことになります。

ポイント: この判決は「更新料は払わなくてよい」という結論を示したものではありません。むしろ「契約書に具体的に書かれた、相当な金額の更新料特約は有効」と判断した判決です。誤解している解説記事もあるため、正確に理解しておくことが大切です。

混同しやすい別の判例との違い

更新料の判例と混同されやすいものに、敷引き特約(退去時に敷金から一定額を差し引く特約)に関する判例があります。こちらは最高裁平成23年3月24日判決(第一小法廷、民集65巻2号903頁)であり、更新料の判決とは判決日も小法廷も異なる別の事件です。敷引き特約については敷引き特約は無効にできる?最高裁平成23年3月24日判決の判断基準で解説していますので、更新料の話と混同しないよう区別して理解してください。

注意: インターネット上の解説記事の中には、更新料と敷引きの判例を混同して引用しているものも見られます。契約書の特約が更新料なのか敷引きなのかによって、参照すべき判例も異なります。

更新料と更新事務手数料の違い

更新の際に請求される費用には、貸主に支払う「更新料」のほかに、管理会社・仲介業者に支払う「更新事務手数料」が別途設定されている契約もあります。更新事務手数料は、更新手続きの書類作成などの事務作業に対する対価という位置づけで説明されることが多い費用です。

更新事務手数料を支払う法律上の義務があるかどうかは、更新料特約と同様、契約書・重要事項説明書にその旨の記載があり、金額・支払時期が明確になっているかどうかによって判断される、いわばグレーゾーンの論点とされています。なお、更新事務手数料は媒介(仲介)の報酬ではないため、宅地建物取引業法46条が定める仲介手数料の上限規制がそのまま及ぶものではないと一般に整理されています。争点になるのは、契約書・重要事項説明書に根拠と金額が明示されていたかどうかです(仲介手数料の上限そのものについては仲介手数料はなぜ「家賃0.5ヶ月」が原則なのかで解説しています)。契約書に記載がないまま更新時に初めて請求された場合は、その根拠を確認する余地があります。

項目 更新料 更新事務手数料
支払先 貸主(オーナー) 管理会社・仲介業者であることが多い
性質(一般的な説明) 契約更新の対価 更新手続きの事務作業への対価
支払う根拠 契約書の更新料特約 契約書・重要事項説明書の記載
発生の有無 地域・契約により大きく異なる 契約により異なり、記載の明確性が争点になりやすい
金額の目安 地域差が大きい(後述) 契約により幅が大きく、公表された統計がないため一律の目安は示せません。更新通知書に記載された金額を確認してください

更新料の相場は地域によって大きく異なる

更新料の有無・金額は全国一律ではなく、地域の慣習によって差が大きいことが知られています。首都圏では家賃1か月分程度が目安とされる一方、関西の多くの地域や北海道・九州の一部では更新料の慣習自体がない地域もあるとされています(出典:賃貸スタイルコラム、SUUMOお役立ち記事。いずれも不動産ポータルサイトのコラムによる整理であり、国土交通省等による全国統計は公表されていません)。

豆知識: 更新料の相場は資料によって数値の幅があり、一律の「全国相場」を断定することはできません。同じ都道府県内でも物件・貸主によって扱いが異なることがあるため、まず自分の契約書に記載された金額を確認してください。

法定更新の場合はどうなるか

借地借家法(平成3年法律第90号、平成4年8月1日施行)26条1項は、期間の定めのある建物賃貸借について、当事者が期間満了の1年前から6か月前までの間に相手方へ更新拒絶等の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなすと定めています。ただし同項ただし書により、更新後の契約は「期間の定めがないもの」となります。期間の定めがない契約になると、以後は期間満了に伴う「更新」という場面自体が生じないため、次回以降の更新料が問題になる余地も原則としてなくなります。なお期間の定めのない契約では、借主はいつでも解約を申し入れることができ、民法617条1項2号により申入れから3か月の経過で契約は終了します(貸主からの解約申入れには借地借家法28条の正当事由と、27条による6か月の期間が必要です)。

なお、貸主が期間内に更新拒絶の通知をしたとしても、それだけで契約が終了するわけではありません。貸主からの更新拒絶には借地借家法28条の「正当事由」(貸主・借主が建物の使用を必要とする事情、従前の経過、建物の利用状況・現況、立退料等の申出)が必要です。また期間満了後も借主が建物の使用を継続し、貸主が遅滞なく異議を述べなかったときは、同法26条2項により契約は更新されたものとみなされます。「更新しません」という通知が届いても直ちに退去義務が生じるわけではないため、自己判断で退去を決めず、後述の相談窓口に確認してください。

法定更新となった今回の更新について更新料の支払義務が生じるかどうかは、契約書の更新料特約が「更新に際して」とだけ定めているのか、「合意による更新の場合」に限定して定めているのかなど、特約の文言の書き方によって解釈が分かれ得る論点です。実務解説では、更新料特約が「合意更新の場合に限る」と限定していない限り、法定更新の場合にも更新料特約の効力が及ぶと解する立場が有力とされています(肯定例:東京高判昭和53年7月20日、東京地判昭和57年10月20日、東京地判平成2年11月30日/否定例:東京高判昭和54年2月9日、東京高判昭和56年7月15日。いずれも下級審の個別事案の判断であり、最高裁の統一的な判断は示されていません)。「法定更新だから当然に払わなくてよい」と考えるのは危険です。

法定更新であることを理由に更新料の支払いを拒めるかどうかは、契約書の記載次第で結論が変わり得るため、この記事だけで一律に判断することはできません。疑問がある場合は、契約書の更新料条項の文言を確認したうえで、後述の相談窓口に相談することをおすすめします。

自己診断:自分の契約に当てはめて確認する

チェック1:契約書に更新料特約があるか

  • 契約書(賃貸借契約書)に「更新料」という言葉が明記されているか
  • 更新料の金額(または算定方法)が具体的に書かれているか
  • 更新料の支払時期(更新時、更新月末までなど)が書かれているか

これらが契約書に一義的かつ具体的に記載されていなければ、最高裁判決が有効性を認めた要件を満たさない可能性があります。記載自体が見当たらない場合は、そもそも更新料を支払う契約上の根拠がないケースも考えられます。

チェック2:重要事項説明で更新料について説明を受けたか

  • 契約前の重要事項説明で、更新料の有無・金額について説明を受けたか
  • 重要事項説明書に更新料に関する記載があるか

契約書と重要事項説明書の記載が食い違っている場合は、どちらの記載を優先して考えるべきか整理したうえで確認することが大切です。

チェック3:金額が「高額に過ぎる」水準ではないか

  • 更新料の金額は、家賃・共益費と比較してどの程度の水準か
  • 同じ地域・同程度の物件の相場と比べて著しく高額ではないか

最高裁判決は「高額に過ぎるなどの特段の事情」があれば無効になり得るという枠組みを示しています。ただし「いくらから高額に過ぎるか」という明確な金額基準が法律で定められているわけではなく、個別の事情を総合的に見て判断される点に注意してください。また、このハードルは実際には高い点にも注意が必要です。最高裁平成23年7月15日判決が有効と判断した3件の事案は、賃料月額4万5000円・契約期間1年・更新料10万円、賃料月額5万2000円・契約期間2年・更新料賃料2か月分、賃料月額3万8000円・契約期間1年・更新料賃料2か月分という内容で、いずれも高額に過ぎるとはされませんでした。1年ごとに賃料2か月分程度でも有効とされた例があるため、「相場より高い気がする」という程度の事情だけで無効を主張できるわけではありません。

チェック4:更新料と更新事務手数料の両方を請求されていないか

  • 更新通知に「更新料」と「更新事務手数料」の両方が記載されているか
  • それぞれの金額の内訳・根拠が契約書に明記されているか

両方が請求されている場合、それぞれ別の性質の費用として契約書に記載・説明があるかを確認してください。記載が不明確なまま合算で請求されている場合は、内訳を確認する余地があります。

チェック5:今回の更新が合意更新か法定更新か

  • 貸主・管理会社から更新の合意を求める書類(更新契約書・合意書)へのサインを求められているか
  • それとも、特に手続きがないまま契約が継続する案内(法定更新の案内)になっているか

合意更新の手続きを求められている場合、更新料特約の適用が比較的争いになりにくい一方、法定更新の場合は前述のとおり契約書の文言次第で解釈が分かれ得ます。注意したいのは、更新契約書や更新合意書に署名・押印すると、その時点で更新料の支払いについて新たな合意が成立したと扱われる可能性が高いことです。金額や根拠に疑問がある場合は、署名する前に「契約書のどの条項が根拠か」を確認してください。署名した後で「特約が不明確だった」と主張することは難しくなります。

注意: ここでの自己診断はあくまで一般的な考え方の整理であり、個別の契約書の有効性や支払義務の有無を断定するものではありません。最終的な判断は契約書の実際の記載内容と個別の事実関係によって異なります。

行動:確認する書類と相談先

確認する書類

  1. 賃貸借契約書:更新料特約の有無、金額、支払時期、「更新の都度」なのか回数に条件があるのかの記載
  2. 重要事項説明書(35条書面):契約前に更新料についてどう説明されているか
  3. 更新通知書・更新契約書(案):今回請求されている金額の内訳、更新料と更新事務手数料が分けて記載されているか
  4. 過去に更新履歴がある場合は、前回までに実際に支払った金額との整合性

管理会社への確認の仕方(一般的な例)

以下は、更新料について管理会社・貸主に確認する際の言い方の一例です。個別の状況によって適切な聞き方は異なるため、あくまで参考としてご利用ください。

  • 「契約書のどの条項が更新料の根拠になっているか、該当箇所を教えてください」
  • 「更新料と更新事務手数料が両方請求されていますが、それぞれの内訳を教えてください」
  • 「今回は合意更新でしょうか、それとも法定更新の扱いになりますか」

ポイント: 更新料に納得がいかない場合でも、感情的なやり取りになる前に、まず契約書の該当条項を示しながら事実確認から始めることをおすすめします。契約書の記載が明確であれば、それに基づいて話し合う土台ができます。

更新のタイミングで見直したいこと

更新は、契約時に見落としていた特約や費用を見直す機会でもあります。特約全般の有効性の考え方は賃貸契約書の特約はどこまで有効?消費者契約法10条の判断基準、更新に伴う短期解約・解約通知については短期解約違約金とは?発生条件・相場・払わなくていいケース賃貸の解約通知はいつまでに出す?1ヶ月前・2ヶ月前ルールと計算方法もあわせてご確認ください。

相談先

更新料の請求に納得できない、契約書の記載が不明確、あるいは支払いを拒んだ結果トラブルになりそうな場合は、次のような窓口に相談することができます。

  • 消費生活センター(消費者ホットライン188):更新料を含む契約トラブル全般について、まず状況を整理する助けになります。
  • 法テラス(日本司法支援センター):更新料特約の有効性など法的な見通しについて相談したい場合の窓口です。
  • 各地の弁護士会の法律相談:個別の契約書の有効性についての法的判断が必要な場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

まとめ

更新料は法律が一律に義務づける費用ではなく、契約書に更新料特約が明記されている場合に発生する契約上の債務です。最高裁平成23年7月15日判決(第二小法廷)は、金額・支払時期が契約書に一義的かつ具体的に記載され、高額に過ぎないといった事情がない限り、更新料特約は消費者契約法10条に違反せず有効と判断しました。相場は地域差が大きく、更新事務手数料との違いや法定更新時の扱いも契約書の記載次第で結論が変わります。まずは自分の契約書と重要事項説明書を確認し、更新料特約の有無・金額・支払時期を一つずつ照らし合わせることから始めてください。判断に迷う点があれば、契約前であれば仲介会社の宅地建物取引士に、更新時であれば消費生活センターや弁護士などの専門窓口に相談することをおすすめします。